離婚調停の場で面会交流の合意にどうしても達しえない場合に日本では審判に移行しますが、審判に移行する前に、カウンセリング受講を命じるということも可能な選択肢であると思うようになりました。それはドイツのシステムを知ってからのことす。
ドイツでは1989年に民法が改正され、裁判所は判決を出す前にできるだけ積極的に両親間の葛藤を解決し、合意に達するように努めねばならないと法に明記されました。また心理の専門家の役割もまた単に現状の家族ダイナミクスの査定のみにとまらず、両親間の葛藤を下げ、より協力的な態度に至るようにサポートすることが求められるようになりました。つまり心理の専門家には葛藤の高い両親間の「ピースメーカー」としての役割、機能が期待されるようになったといえます。
日本での対応は、審判に移行する前にできるだけ自発的に調停で合意に達するようにとの努力がなされていますが、いかんせん、調停の場では、両親間の葛藤を下げる努力はなされずに何とか合意点、妥協点を探ろうとの努力がなされることがほとんどです。これが上記のドイツの試みとの大きな違いであると思います。
親子疎外が起きてしまっているケースにおいて、両親間の葛藤を解決しないままに力ずくで面会交流の合意に達しても、裁判所の手を離れた後に、監護親の中に面会交流を実施していくことに対して抵抗が生じてきて、結局、面会交流が履行されないということが生じてくるケースが多いように思います。そしてまた調停を申し立てるということが何度も繰り返されるわけです。
このように合意には達したものの、その後に監護親がその合意を守らないような場合、日本のシステムではまずは履行勧告をしてもらい、それでも守らない場合には間接強制(面会交流が1回不履行になった場合には、いくら支払うとの決定)を求めるという方法があります。しかし実際問題として貧困という問題から間接強制できない場合もあり、また間接強制が認められた場合でも、罰金を払ってでも履行しない人もいれば、母親が「ママを苦しめる人」との父親イメージを子どもに抱かせてしまっているような場合、父親が実際に罰金を取り立てれば、そのことがまた子どもの父親に対するネガティヴ・イメージを強めることになってしまうために、そのことを懸念して、最終的に取り立てないとの選択をする人もいるわけです。また間接強制の結果、面会交流の引き渡し場所に監護親や祖父母などが子どもを連れてきて父親あるいは仲介役の第三者に引き渡そうとしても、30分も1時間も子どもが泣いて、連れてきた大人にしがみついて離れず、結局、面会交流の実施をあきらめざるをえなくなる場合もあるわけです。また家まで迎えに来てくれたら引き渡すというので、家に迎えに行くと、家の中で子どもが泣き叫んでいたり「帰れ!」と叫んでいたりで、いつまで待っても出てこないというような場合もあります。また引き渡しをした後に、子どもが逃げ出し、家まで帰ってしまったりといたことも起きることもあります。
こうした場合には、親側は面会交流を子どもにさせようとしているのだが子どもが拒否して実現できないということになりますので、罰金を支払う必要はなくなってしまうわけです。
米国であれば、このような場合には、まずもって第三者機関を使っての面会交流を裁判所が命令し、その様子は定期的に裁判所に報告されます。同時に面会交流への抵抗の基盤に両親間の高葛藤そして/あるいは監護親の心理的な問題が横たわっていると判断した場合には、裁判所が断絶してしまっている親子を再統合する目的で、家族全員を対象にカウンセリング受講命令を出すというシステムがあります。
このように片親疎外によって断絶してしまっている家族に裁判所が介入していく際には、最終的に面会交流が実現し、親子が再び関係性を取り戻せるようになるまで、「命令」という裁判所の強制力を使ってでも介入していくというようなシステムがどうしても必要であるわけです。このような強力なシステムの背景には、同居中に関係の良かった親子が別居・離婚後にその関係を断絶してしまうことは、子どもの成長を深刻に阻害するとの揺るがない信念があるわけです。