ご挨拶

棚瀬一代 本来、最も緊密な絆が築かれるはずの親子の間にうまく愛着が育たないのはなぜなのか?こうした問題意識のもとに、私は、心理臨床家として多くの親子関係に介入する役割を担ってきました。そうした介入を通して親が初めて我が子を心から可愛いと思い始め、またそれと期を一にして子どももまた初めて安心して親に甘えられるようになるといった親子関係の劇的な変化を目撃してきました。まさに「子どもの第二の誕生」と言ってもよい瞬間です。

 また私はアメリカで、8年余の長きにわたって暮らしてきました。その間に、離婚後も共同養育している人たちに面接調査を行ったり、またメディエーター(調停者)の訓練を受ける機会を得たりしております。そうした経験を生かして日本でも12年間ほど家庭裁判所の家事調停委員として多くの離婚ケースの調停に携わってきました。日本では、ほとんどの場合に別席調停が行われますが、アメリカでは原則、同席調停です。こうした制度の違いの中でも、私は同席調停の良さをできるだけ別席調停でも生かす工夫をして成果をあげてきました。

 また心理臨床の場でも多くの離婚家庭の親子に出会ってきました。そうした出会いを通して、同居親の思いと子どもの思いは多くの場合一致していないことを知りました。つまり親は離婚して良かったと思っている時でも、ほとんどの子どもは離婚してほしくなかったと思っていること、また同居親が他方の親の顔も見たくないと思っている時でも、ほとんどの子どもは密かに別れ住む親への思慕の念を抱き続けていることを知りました。

 こうした臨床経験から、離婚を考え始めた段階で、第三者を交えて修復の可能性を探り、修復への努力を子どものためにしてほしいと強く願うようになりました。

 結婚したカップルには、それぞれ特有のコミュニケーション・パターンがあるわけです。破綻へと突き進んでいるパターンに気づき、変えていくことは可能です。
 
 こうした修復の努力にもかかわらず離婚を選び取った場合でも、離婚そのものが子どもに傷を与えるわけではありません。離婚後に両親が子どものために賢明な選択をしていけば子どもに与える傷を小さくすることができます。そのためには、親自身が自分にとっての離婚体験をしっかり見つめる必要があります。そうした努力は離婚を選び取る親の子どもへの愛情であり責任だと思います。

 親の別居・離婚後に子どもが登校渋りや様々な身体的な症状を出すということはよくあることです。子どもの不適応というSOSに応えずに放置しておきますと、一時的な不適応が長期化し、子どもの健全な成長を損なう恐れがあります。

 また日本においては、別居・離婚後に別居親が長期にわたって子どもと接触を失ってしまうということがあります。こうした親子関係の断絶の後に親子が面会交流という形で会い始めることができても、絆が形成されていなかったり、一度できた絆が消失してしまっているためになかなか意味ある時間を共有できないという問題が生じてくる場合があります。こうした問題にもボンディング・セラピーで対応していきたいと思います。

 最後に、当相談室は、愛着理論を背景にした精神分析的精神療法を基本的な技法としておりますが、来室された方が抱える問題や課題に応じて適宜、支持的なアプローチも行っていきます。

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