高葛藤離婚ケースにおけるセラピストの陥る罠

面会交流を巡って熾烈に争う両親の間で苦しむ子どもが種々の症状を出してセラピストの元に監護親によって連れて来られるということが近年増えてきています。私が今年3月まで勤めていた(現在も客員教授)神戸親和女子大学も例外ではありませんでした。

こうした場合の一般的な対応は、子どもとプレイセラピー、監護親と親面接をしていくことになります。中には別居親にも来てもらうという対応をとるセラピストもいますが、非常に稀です。

セラピストは、来談したクライエントの言葉をその真偽を問うことなく、その人の内的現実として共感するように訓練されています。こうした場合に、クライエントの内的現実が非常に歪んでいるような場合、共感を示すばかりでは、それを修正し、家族の葛藤を低めるのを助けるのではなくて、来談したときよりもその歪みを強くし、葛藤をエスカレートさせることに手を貸すことになってしまいます。

10月1日に報告しましたPC(ペアレンティング・コーディネーター)を利用したケース2においてもセラピストは一方のクライエントの言い分に共感して、面会交流を1週間交代から隔週末2泊3日に減らすように裁判所に提言しております。

こうした高葛藤離婚ケースを引き受けるセラピストは、ケースを引き受ける条件として、子どものために一番良い解決策を見つけていきたいからと別居親とも面接することを承諾してもらう必要があると思います。

しかし、そうした条件を「子どものベストインタレスト」であるとの説得にもかかわらず拒否される場合には、離婚後の両親間の葛藤の狭間に立たされ続ける時に子どもがどのような影響を受け、どのような症状を出すのか、またそうした状況に長期に渡って曝され続ける時に子どもの健全な発達がどのように阻害されていくのかについての専門的知識に基づいた助言を与えるという教育的な機能をも果たしていく必要があると思います。

アメリカでのケース2における対応は、家族全体を対象に家族再統合カウンセリング受講命令PC任命がなされ、家族全体の葛藤を低めかつ調整していくということになりましたが、日本ではまだPCが利用されることが制度化されていない状況ですから、セラピストが家族全体を対象としてPC的役割をもとっていくことが大きな意味をもってくると思います。