プレイセラピーを通して見えてくる離婚の子どもへの影響(5)ー過剰適応

新年あけましておめでとうございます。今年一年、また心新たにライフワークである「離婚と子ども」の問題に情熱を注いでいきたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

今日は、D子(9歳)とのプレイセラピーを通して考えていきたいと思います。

D子の両親は、D子が2歳の時に別居し、4年後に離婚しています。D子が誕生する前から両親間の葛藤は高くなっており、D子が生まれた頃には、結婚生活は完全に破綻していました。別居後、D子は父とは全く会っていないために、父の記憶は全くありません。母親は実家に戻り、フルタイムで残業の多い仕事をこなしてきました。来談するまでのD子は家でも学校でも誰にも依存せずに自分でこなすなど極端に良い子で、学業成績も優秀でした。しかし小学3年の時に部屋の中で涙をスッーっと一筋流しながら茫然自失の状態で立ちすくむ姿を母が見つけ、びっくりした母が私の所に相談に来たのです。

母の主たる訴えは、「D子は本当の気持ちを素直に表現しないし、私とも自然な会話ができず、私の顔色を見て行動するので、何を考えているのか分からず自分の子ながら恐いです・・・」というものでした。

D子とは通算58回のプレイセラピーをしました。

D子の第一印象は、身体的には健康そうですが、全般的に抑うつ気分が漂い、動作もゆっくりで子どもらしさがなく、言葉も行動も統制が効き過ぎていました。プレイ(50分)の中でも、最初の6回ぐらいは、床に砂がこぼれると手で拭き清めたり、箱庭のミニチュアの棚の砂もきれいに掃除するほど強迫的に掃除をしまくり、遊ぶのは残りの10分ぐらいという状態でした。

ここに見られるD子の姿は「過剰適応」と言われるものです。適応も過剰になりすぎると不適応になってしまいます。

両親が別居・離婚した後に、母親が傷つき体験を引きずっていたり、専業主婦から急に仕事をするようになり、エネルギーが子どもに向くことが減ったりしたときに、女の子はD子のように極端に良い子になる、つまり「過剰適応」することによって、母親の注意を惹こうとすることが多いと言われています。男の子は、逆に「過小適応」つまり問題行動を起こして母親の注意を惹こうとすることが多いと言われています。

D子の場合には、9歳で、この過剰適応して生きることに破綻を来してしまったわけです。これはある意味、幸いでした。お陰でD子は小学6年の頃には、イヤなことはイヤとはっきり主張するようになり、また母に対しても「その考え方、何かおかしい!」と批判的に考えることもできるようになりました。来談当初、D子が「恐い」と訴えた母も、今ではD子が「可愛い!」と思えるまでに大きく変化しました。

学校でも、以前は無口で暗かったD子でしたが、積極的に行事に参加したりと前向きな姿勢を見せるようになりました。プレイルームでも大きな笑顔を見せるようになりました。

プレイの中で「両親揃った家族」への憧れが絵に表現されたことがありました。しかしD子の父は、子どもとの面会交流を望まず、新しい再婚家庭を築いていきました。

しかし、離婚後に両親の一方ないし双方が再婚しても、その再婚家庭を元の家族と絶縁する形で閉ざしていくのではなくて、別れ住む親子の交流を続けることを通して、外の世界のネットワークに拡大していくことが子どもの願いそして福祉に適っていると多くの子どもと接することを通して私は思っています。

そのためには、新しい家庭「安定」こそが子どもの福祉に適うという意識から、再婚後も別居親と子どもの接触を気持ち良く許していくことこそ子どもの福祉に適うのだとの意識変革が離婚を選び取り、また再婚を選び取った親側の子どもに対する責任ではなかろうかと私は思います。

 

 

 

D子